2020年4月3日金曜日

「ABC予想」証明した望月教授に「ノーベル賞の1つや2つでは足りない」と関係者 2020/04/03 19:00 「世紀の大偉業だ」  関係者がこう称えたのは、京都大学数理解析研究所の望月新一教授だ。これまで未解明だった数学の超難問「ABC予想」を証明したとする論文を2012年に発表し、その正しさが認められたことで、同研究所が編集する専門誌「PRIMS」(ピーリムズ、発行は欧州数学会)に掲載されることが決まった。京都大学によると、論文はA4サイズにして約600ページで構成された大作である。  公私にわたり20年以上の交流があり、ABC予想に詳しい東京工業大学の加藤文元教授は「数百年に1回の革命的な成果だ」と賛辞を惜しまない。 「私は世紀の大偉業だと思っている。ノーベル賞を1つや2つあげても足りないくらいではないか」  そもそも、ABC予想とはなんなのか。一言で表すなら「整数の足し算とかけ算にある相関関係の証明」(加藤教授)だ。以下に記す命題が、「ABC予想」である。 「共通の素因数をもたない自然数a,b,cがa+b=cを満たすとする。積abcの素因数分解に現れる互いに異なる素数すべての積をrad(abc)と書く。このとき任意の整数εに対して、a,b,cに依存しない整数K=K(ε)が存在して、 C<K(rad(abc))**1+ε  が成り立つ。」(京都大学の広報資料より抜粋)  これだけみても、記者も含め、ほとんどの人は意味が解らないだろう。まずは、a+b=cという簡単な数式を思い浮かべてほしい。ここに例えば、a=1、b=8を当てはめてみる。すると、1+8=9=cということになる。  そして、a,b,cを素因数分解する。Bの8は「2×2×2」となるので素因数は2だ。Cの9は「3×3」となるので素因数は3になる。Aは1なので素因数はない。これらの積を求めると「2×3=6」となる。  これら二つを比較すると、和で導き出したc=9が、積である6よりも大きくなることがわかる。だが実際には、無限にあるa,b,cの組み合わせのうち、ほとんどは積が和より大きくなるとされている。ABC予想とはこの「ほとんどの場合、積が和よりも大きくなる」ということをのべた命題だ。だがそれはあくまで“予想”であって、それを実際に“証明”し、「定理」へと進化させることは長年、誰もできずにいたのである。これを証明したのが望月教授だ。 「足し算的な側面と、かけ算的な側面を比較し、その関係を述べている式です。この二つの間に常に成立するような不等式の法則があるはずだと。これが世紀の難問だったわけです。今回の証明により、そのほかの数々の数学の難問の解決が一気に近づきました」(加藤教授)  望月教授がABC予想を証明する論文を発表したのは2012年8月のことだ。そして今回、その正しさが客観的に認められ、専門誌への掲載が決まったのが今年2月のことである。あまりに難解なため、望月教授を除いた編集委員たちによる査読に約7年半もの時間を要した。 「一般の人の目からすれば時間がかかったように思われるでしょう。しかし、何しろ600ページもある論文です。私個人の感想としては、予想よりも早かったなと思います。望月教授の理論は、あまりに斬新なものですから、学会にはすぐに受け入れられないと思っていました。数十年はかかることを覚悟していましたが、認められてよかった」  ところで、望月教授とはいったいどんな人物なのか。 「彼はとても気さくで、二人でよく議論を重ねたものです。お肉が大好きで、彼と食事をするときはいつも焼肉なんですよ(笑)。学問的なことなので、この7年半、他の研究者らからやや厳しい視線を向けられることもあったと思いますが、彼の芯にある強さが今回の偉業に結び付いたのではないでしょうか」(加藤教授)  この大偉業は、私たちの生活に一体なにをもたらしてくれるのか。 「この数年で具体的になにか影響があるかといえばそれはありません。ですが、例えば今我々が持っているICカードの技術っていうのは、18・9世紀にかけて導き出された楕円関数論に基づいている200年の前のことが、現代に息づいているわけです。今回の論文が、将来の人類にイノベーションを与えてくれる可能性は大いにあるのではないか。それがなんなのかは、難しすぎて予測すらできません」 (AERA dot.編集部/井上啓太)

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